家主が知っておきたい立ち退きの「正当事由」について
家主(賃貸人)と借主(賃借人)との契約上の関係は、当事者間で交わした契約に加え、借地借家法によっても厳格に取り決められています。そのため家主の都合だけでは立ち退きを求めることは基本的に認められず、社会通念上妥当と認められる合理的な理由が必要となります。
正当に立ち退きを求めるにはどのような理由がなければならないのか、当記事ではこの点に焦点を当てて解説していきます。
立ち退きを求めるには「正当事由」が必要
借主に対して立ち退きを求めるための正当事由は、借地借家法により次のとおり明確に規定されています。
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人・・・が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
この規定は、借主の保護を目的に制定されたルールです。家主と借主では、実質において家主側が有利な立場にありますし、借主が突然立ち退きを求められたときの「住まいを失う」という不利益は非常に大きなものです。そこで両者のパワーバランスを調整し、借主を保護するため、同法では「家主に正当事由がない限り、一方的に借主に対して立ち退きを求めることはできない」と制約をかけているのです。
正当事由は5つの要素から判断される
上記規定に基づく正当事由の判断は、主に次の5つの要素から総合的に考慮して行われます。
- 建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関するこれまでの経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 財産上の給付
このうちもっとも重視される傾向にあるのが(1)の「建物の使用を必要とする事情」です。これは家主と借主の双方の視点から考える必要があり、各々がその建物をどの程度必要としているかが比較検討されます。
また、(5)の「財産上の給付」も家主としてチェックしておくべきです。これはつまり「立退料の支払い」を意味しており、支払いが絶対的な義務とされているわけではないものの、通常、立退料の支払いが必要とされています。そのためある程度金銭の負担が生じるものと捉えておきましょう。
一方の(2)(3)(4)までの各要素は、副次的な判断要素として位置づけられています。また大切なことは、これら各要素を単独で判断するのではなくすべてを総合的に勘案して正当事由の有無を判断するという点です。そのため「立退料を支払えばいい」と単純に判断することはできません。ほかの事情からある程度正当事由が認められることが必要で、立退料はその補完的な役割を果たすに過ぎないのです。
正当事由が認められやすい具体例
正当事由として認められるかどうかは、種々の事情を総合的に考慮しないと判断できないため、単一の理由のみをもって線引きをすることは難しいです。ただ、傾向としては次のような事情があるときは正当事由として認められやすいといえるでしょう。
老朽化により安全性に問題が生じている | 建物が古く、倒壊のおそれがあるため建物を取り壊して安全を確保する必要性があるときは正当事由が認められやすい。 耐震性の問題など、人命に関わる事情があるときは比較的正当事由が認められやすい。 |
|---|---|
家主が自宅として使う必要がある | 家主側が自己使用を求めており、代替手段がない状況にあるなら、比較的正当事由として認められやすい。 たとえば家主が老齢で、家族と同居するために貸家の返還を求めるケース、転勤後の通勤のため家主が貸物件に戻るケースなど。 |
再開発事業の計画があるなどより高度な活用を必要とする | 物件の高度な利用・有効活用を目的とした建て替えでも、正当事由として認められる場合がある。 古い建物を取り壊して収益性の高い建物に建て替える、地域全体の都市計画や再開発事業の一環として取り壊しや用途変更が必要になる、など経済的合理性や公益性がある場合など。 ただし、このような目的の場合には比較的高額な立退料の支払いが必要となることも多い。 |
借主に契約違反がある | 借主が家賃の滞納を繰り返している、騒音・悪臭・嫌がらせなどの迷惑行為がある、などの重大な違反行為があるときは立ち退きを求める正当事由が認められやすい。 ただし家主と借主の信頼関係を破壊する程度の行為が必要とされ、たとえば滞納が1回あった程度では認められにくい。 |
立ち退きの強制はできるか
家主が正当事由を主張して立ち退きを求めても借主が任意に退去してくれないとき、最終的には裁判所を通じた強制執行が必要です。
しかし、強制執行を実行するまでの過程は時間がかかるうえ手続きも複雑です。まず家主としては明け渡し請求訴訟を提起しなければならず、裁判所で正当事由の存在を立証・証明しないといけません。そして判決の確定後、賃借人が任意に退去しない場合に限り、強制執行の申立てが可能となります。
さらに、強制執行の手続きは、①申立て、②催告、③断行という3つの段階を経て実施されます。
催告から断行までには1ヶ月ほどの期間を空ける必要がありますし、正当事由があるからといって即座に立ち退きを実現することはできないのです。
なお、当該建物の所有権を持っているからといって、家主が独自に強制的な立ち退きを行うことは違法行為であるため十分注意してください。たとえば新しい鍵を作って入れなくしたり、室内に侵入して家具を外に出したりしてしまうと、不法行為を理由に逆に訴えられる危険性があります。最悪の場合、刑事告訴を受けることにもなりかねません。
借主との交渉が大事
上記の法的措置により、時間と手間をかければ立ち退きを強制することは可能です。しかし、この解決方法は双方にとって最適とはいえません。相手方が断固拒否している場合は仕方ありませんが、話し合いができる状況にあるならまずは交渉から始めましょう。
実際、多くの立ち退き事案は訴訟に至る前段階、私的な交渉で解決できています。そのためにも家主は、立ち退きを求める理由を丁寧に説明し、冷静に誠実に対応していくことが求められます。
また交渉においては書面または電磁的記録として情報を残すようにし、「言った・言わない」のトラブルを避けるよう努めましょう。
具体的な交渉術、適切な立ち退きの求め方がわからない場合は弁護士にご相談ください。話し合いになかなか応じてくれない場合でも、弁護士が間に立つことで交渉がスムーズになるケースがあります。万が一訴訟を必要とする場合でも弁護士なら一貫してサポートすることができます。
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吉岡 正太郎Yoshioka Shotaro
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- 学習院大学法学部法学科卒業
- 日本大学法科大学院修了
- アーチ日本橋法律事務所開設
事務所概要
Office Overview
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